これは呪文ですか? ラヒホイタヤという文字を、ドラクエ世代のぼくが数年前ネットで目にしたときの感想である。
その後、それがどうやら福祉にまつわるフィンランドならではの資格であり、しかも多岐にわたるケアの専門領域を横断するような、ある意味「スーパーな」資格であるということを知るにいたり、なるほどかなり攻撃力ありそうという感想に変わったものの(呪文を離れろ)、しかしそれが実際どのようにフィンランドで運用されているのかについてはいまひとつわからないままだった。
そんな折、この「ラヒホイヤタ」の資格を実際に取得し、現地で活躍されているテーリカンガス里佳さんによる講演会がつい最近東京で開かれ、スタッフのハラダ君が参加してきたという。そこで、これ幸いとばかりここでレポートしてもらうことにした。
以下は、2019年6月20日に芝の建築会館でおこなわれた「フィンランドの社会保障制度と在宅高齢者介護の実態報告」と題された講演会から、ラヒホイタヤに関して知ったこと、感じたことを原田智英君にまとめてもらったものである。
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北欧フィンランドには雄大な自然や、個性的なアート、洗練されたデザインといったものだけでなく福祉先進国としての顔があります。そんなフィンランドにラヒホイタヤ(Lähihoitaja)という資格があるのをご存知でしょうか?
ラヒホイタヤは保育士や准看護師、介護士、歯科助手、福祉士などを統合した国家資格で、乳幼児から高齢者まで人生におけるあらゆる場面をケアすることができます。lähiは「そばにある」、hoitajaは「ケアする人」、つまり「身近でケアする人」の意味です。
今回お話を聞かせていただいたテーリカンガス里佳さん(在フィンランド21年 訪問介護歴4年)は、訪問看護・介護を専門とするラヒホイタヤとして1日に10~12人の高齢者を担当しています。
モバイル端末に訪問先、時間、介護内容、注意点などの細かい指示があり、業務が終わるとそのモバイルでレポートを書いて報告をします。
テーリカンガスさんが仕事をしているポルヴォーではデータベース化もされており、医師やその他の施設の人もそのレポートを見ることができるそうです。このような医師や介護士などの連携やサポートの充実は「介護は行政の仕事である」という考えが徹底されているからでしょう。
ラヒホイタヤはひとつの資格でいろいろな分野にたずさわることができるため、転職なども比較的スムーズで人材確保がしやすいというメリットがあるそうです(日本でも福祉人材の確保を目的として2015年に導入の検討がされましたが、関係団体の反対により見送られました。)
一番印象に残ったのはやはりラヒホイタヤを含め現在の社会保障制度を育んできたフィンランド人の精神・資質についてです。
フィンランドの厳しい自然環境のなかでは人々は助け合わなければ生きていけません。シャイで社交的ではないと言われますが、困っている人を無視したり見捨てたりすることはありません。フィンランドの社会では、ひとりひとりがユニークな(=比類のない)存在であり、何かできるかできないかに関わらず、その存在が認められています。そして、そこでは人間としての最低限の生活を侵害されることはないのだそうです。
これらのことはそのままムーミンの世界観を思い起こさせないでしょうか? モランもニョロニョロもヘムレンさんもいる世界。おそらく人生の豊かさとは、そういった他者を認めて支え合うような多様性のある世界にこそあるのかもしれません。
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以上、スタッフの原田智英君による報告でした。じつは、当日のかなり詳細な書き起こしを見せてもらうことで、ぼくもこのラヒホイタヤについてより具体的な知識を得ることができたのですが、スマホによるデータ管理などテクノロジーと人間の力とをうまく組み合わせることにより効率良い在宅介護のシステムを構築しているように感じられました。
また、いちど資格を取得してしまえば外国人でも第一線で活躍できるという点で、移住者やセカンドキャリアのひとの雇用創出にもつながっているようにも思います。社会保障の手厚い国家では、就業可能なすべての人は仕事をし税金を納めるというのが大原則ですから、高齢化社会と向き合い支えるためにすべてのフィンランドに暮らす人びとの力を結集しようという強固な意志を感じました。
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