みんなHÄN〜声に出して読みたいフィンランド語


 あなたはHän、わたしもHän、みんなHän

 こんなキャンペーンが、いまフィンランドから発信されています。すでにご覧になられたでしょうか? このキャンペーンの発信元は、フィンランド外務省によって創設されプロモーション協議会が運営する団体「thisisFINLAND」。

 そこでは、こんなことが謳われています。

"Hänとは、機会均等を体現するフィンランド語ならではの代名詞です。それは、人びとがそれぞれの背景や性別、また外見によって規定されることのないよりよい世界のシンボルといえます。"


 じつは、フィンランド語には三人称の代名詞に「彼」「彼女」といった区別はなく、すべて「Hän」という一語によって表されます。ここに言われるのは、つまりそういうことです。日本人の場合、まず英語から外国語の学習を始めるため、フィンランド語を学びはじめた当初はそのことをを知ると戸惑います。 え? それって不便じゃない?
 でも、どうでしょう。日本語もまた、日常的にはさほど「彼」「彼女」といった表現を使わずコミュニュケーションを行い、またそれで十分事足りているとは思いませんか?
 たとえば、「どうもあいつの言うことは信用ならない」とか(例が悪い)、「いやあ、朝まで友達と飲んでてさ」とか。もしここで、「は?!友達?!それ男?それとも女?」となると、これはなんというか、状況的にかなりきな臭くなりますが(例がひどい)。

 しかし、ちょっとしたコミュニュケーションの場面でも、えっと、ここで区別する必要ってある? とすこし立ち止まって考えてみるだけでも「平等」な社会への最初の一歩にはなりうるのではないでしょうか? このフィンランド発のキャンペーンは、ふとそんなことに気づかせてくれます。

 ちなみに、ここで使われている画像には「EST.1543」という文字が入れられていますが、それはアグリコラの著書『ABC Kirja』が発刊された年を意味します。
 ミカエル・アグリコラは、16世紀のフィンランドの当時の首都トゥルクに存在したルター派の牧師です。
 聖書をフィンランドの人たちのために翻訳しようと考えたアグリコラでしたが、当時のフィンランドではまだ書き言葉すら統一されていないことに気づきます。そこで、まずフィンランド語の書き言葉を整理し一冊の本にまとめることにしたのです。それが、フィンランドに現存するフィンランド語による最古の印刷物といわれる『ABC Kirja』です。つまり、この『ABC Kirja』を通して、「Hän」の思想がはじめて文字としてこの世界に姿を現した1543年をもってして、そのルーツとしているわけですね。
 偉大なアグリコラの姿は、いまなお銅像としてトゥルクの大聖堂のかたわらに立っているので、もし観光で訪れる機会があればぜひチェックしてみて下さい。
This is Hän from Miltton on Vimeo.

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