犯人は語る。「ムシャクシャしてやった。誰でもよかった」。とすれば、このブログのタイトルはさしずめ「(よい題が思いつかず)ムシャクシャしてやった。何でもよかった」といったところだろうか。
だいたい、気の利いたタイトルはすでにどこかで誰かが使っていそうな気がするし、変に気取ったタイトルは小っ恥ずかしい。ああイヤだ、めんどうくさいなぁと思っていたとき、ふとアタマをよぎったのがこのフレーズだった。
ヘイ! ヘイッキ(「やあ! ヘイッキさん」)
これは、ぼくが日頃より〝読み物〟として愛好している松村一登著『エクスプレス フィンランド語』(白水社)からの一節である。なぜ、このフレーズが唐突に思い浮かんだのか、それはよくわからない。
とはいえ、ヘイ!はふつうによく使われるあいさつで「モイ!」と同じようなものだし、ヘイッキという名前も、どこか日本語の「平気」みたいな響きがあってかわいい。というわけで、ま、いっか、と付けたのがこの「ヘイヘイッ記」なのである。
それはともかく、なぜこの真面目な語学の〝教科書〟がぼくにとっては〝読み物〟になっているかという話だが、それはなんといってもここに登場する1章1章ごとのスキットがあまりにもシュールでおもしろすぎるからにほかならない。
たとえば、第1章「あなたはだれですか?」はこんなぐあいだ。
レーナ「徹さん、こんにちは!」
徹 「こんにちは! あなたはだれですか?」
いきなりじゃないか、徹。レーナもレーナだ。べつだん腹を立てている風でもない。なかなか強靭なハートの持ち主である。
レーナ「わたしはレーナです。あなたは日本人、ですよね?」
ですよね? じゃねーよ。彼を「徹」と知っていて声をかけたくらいだ、そんなこと知っていたのではないか? こうなると、もはやレーナと徹の会話はさながら〝暴走機関車〟のようで誰にも止められない。
徹 「はい。そして、あなたはフィンランド人です」
おいおい、なにを確認しあっているんだ、このひとたちは。そればかりか、さらにここで徹は、よりによってとんでもないことを言い出す。
徹 「あなたは美しい」
はぁ?? こうなったら、こちらも開き直ってこの後どう盛り上がってゆくのかしっかり見届けてやろうではないか。
と思いきや、いきなり徹は「あ、バスが来た! さようなら」と立ち去り、レーナもまた何事もなかったかのように「さようなら」と去ってゆくのであった。
ちょっと待て!…… けっきょく、取り残されたのは読者だけであった。徹はあまりにもサイコパス的だし、わざわざ徹を呼び止めておきながら、そこでレーナが得た情報といえば「やっぱり徹は日本人」というただそれだけである。もう、こんなの読まされたら、はたして次の章にはどんなドラマが用意されているのか気になってしょうがないじゃないか。
ちなみに、「ヘイ!ヘイッキ」というフレーズは第7章「あなたは何も知りません」に登場する。
美晴を探している途中、タピオは偶然ヘイッキと出会う。タピオは、美晴と共通の知り合いであるらしいヘイッキに彼女の居場所について心当たりを尋ねるが、知らないと言われる。そこから会話が進み、最終的にはタピオが「君はなにも僕のことを知らないんだね」とヘイッキから詰められるという、これはこれでなかなかの修羅場のお話である。
というわけで、ブログのタイトルはかなりテキトーだが、松村一登先生の『エクスプレス フィンランド語』が最高の〝読み物〟であるという点については十分すぎるほどよく伝わったと思うので、これでよしとする。
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