野趣


 野趣。マリメッコの魅力を尋ねられたなら、ぼくはきっと迷わずそう答える。洗練されているとは言い難いが、そのかわり、ぐいぐいと力強く成長をつづける野の草花のような生命の躍動がある。

 なかでも、マイヤ・イソラの作品からはよりはっきりとそれが感じられる。マイヤ・イソラは、けしの花でおなじみの「ウニッコ」をはじめ、石をモチーフにした「キヴェット」や波紋を大胆に図案化した「カイヴォ」など、「自然」からインスピレーションを得た作品をたくさん世に送り出した。マリメッコの代表作として知られ、いまも世界中で愛されている図柄には彼女の手から生まれたものも少なくない。

 ここに、マイヤ・イソラの制作風景を撮らえた一枚の写真がある。そこには、広げられた大きな紙を前にして床にあぐらをかき、絵筆をふるうマイヤの姿。ズボンの膝は絵の具でちょっと汚れている。そして、この写真を眺めていると、ぼくはなんだかわけもわからず楽しくなってきてしまうのだ。
 彼女の描く「花」は、どこかいびつで大雑把にさえ見えるけれど、一枚の紙の上にはおさまりきらない自由奔放なエネルギーで満ち満ちている。そこでは、花はやがて一枚の紙からはみだし、そのままどこかの草原につらなってどこまでもずうっと広がってゆくのではないか、そんな想像力をかきたててくれる。写真のなかのマイヤ・イソラは、まるで紙の上に花のいのちを吹き込む魔法使いのようである。
 
 ややいかめしい文章ながら、以下に引用した古い本からの一節には、マリメッコの登場がいかにファッションの世界を超えて人びとのライフスタイル全般にまで影響を及ぼしたかをうかがい知ることができる。

「同時に、セックス、国際主義、因習の打破などが活発に討論される時代にあって、マリメッコは、芸術性とか派手な彩色、あるいはファッションにまつわる細かな事柄に一切煩わされない服飾哲学の良い例を確立したといえる。この観点から見ると、マリメッコはファッションというよりもむしろ生活様式と受け止めることもできる。」(ウルフ・ホード・アフ・セーゲルスタード著 伊藤弘子訳 『現代フィンランドデザイン』形象社 1968年)

 なにものにも媚びず、なにものにも囚われず、単純な線と鮮やかな色によって世界を埋め尽くそうとするマリメッコが、60年代後半、世界中を席捲していたさまざまな、たとえばウーマン・リブのような社会運動と歩調を合わせるようにしてスポットライトを浴びることになったのもけっして偶然のしわざではないだろう。なぜならマリメッコを身につけるということは、すなわち自然を身にまとうということであり、それはまた〝素〟のままに生きるという「人間讃歌」の表明でもあるからである。

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